
F1ドライバーは、たった1レース走るだけで2〜3kg、暑いレースだと4kg近く体重が落ちることがあると言われています。
マラソンみたいに何十キロも走り回っているわけでもないのに、「座ってハンドル握ってるだけ」に見えるスポーツで、どうしてそんなに体重が減るのか。
しかも、そのレースはだいたい2時間前後。1日じゅう動き回るわけでもないのに、体重計の数字がガクッと下がるのは、ちょっと不思議ですよね。
この記事では、
- レース後に体重が2〜3kgも軽くなる理由
- その中身が何なのか(脂肪なのか、水なのか)
- 「それって人体的にどれくらいきつい状態なのか」
といったポイントを、F1マシンではなく“人間の身体”側から、わかりやすく整理していきます。
この記事では文字ベースでじっくり解説していますが、3〜4分でサクッと知りたい方は、こちらのYouTube動画もどうぞ。
目次(タップでジャンプ)
理由①:とんでもない“G”で全身がフル稼働

まず最初のポイントは、コーナーでかかる「G(加速度)」のエグさです。
F1マシンが高速コーナーを曲がるとき、ドライバーには4〜6G前後の力がかかることがあります。G(ジー)は「重力の何倍か?」を表す単位で、1Gがふだん私たちにかかっている重力です。
体重70kgのドライバーで考えると、
- 4Gのコーナー → 体感は約280kg
- 6Gのコーナー → 体感は約420kg
といったレベルの力が、横方向や前後方向にかかります。もちろん実際の体重が400kgになるわけではありませんが、
「70kgの身体に、300〜400kg級の力が横からかかり続けている」くらいのイメージです。
この状態でドライバーは、
- 首がもげないように支え続け
- 体幹で身体をシートに押し付け
- ブレーキやステアリングをミリ単位でコントロールしながら走り続ける
1周あたり何度もそのGに耐えています。それが数十周分、レース全体だとほぼ2時間近く続きます。
見た目は「椅子に座って運転しているだけ」ですが、中身はほとんど、
“強烈な全身筋トレ+バランス運動”を何度も繰り返しているような状態です。
こうしたGの世界だけでも、
- 首・肩・背中・体幹の筋肉はずっと踏ん張りっぱなし
- 心拍数も上がりやすい
- エネルギー消費と発汗量が一気に増える
という状況になります。
この「とんでもないGに耐え続ける」というだけでも、すでに“座っているだけ”とはほど遠い負荷がかかっていて、レース後に体重がガクッと落ちる土台を作っているわけです。
理由②:コックピットはほぼ“サウナ”
F1マシンのコックピット内部は、条件によっては50〜60℃くらいまで上がることがあります。
- すぐ後ろのエンジンやハイブリッドシステムの熱
- アスファルトからの照り返し
- 空気抵抗を減らすための、すき間の少ないボディ形状
こういったものが重なって、「低温サウナに閉じ込められた」みたいな環境ができあがります。
チームも、
- 外気を取り込む小さなダクト
- ヘルメット周りの通気
などで少しでも熱を逃がそうとしていますが、それでもドライバーの感覚としては、
「ずっと出られないサウナの中で、全力で運転している」
に近い世界です。
エアコンは“積みたくても積めない”
「そんなに暑いならエアコン積めばいいのに」と思いますが、F1ではエアコンはほぼ論外です。
理由はシンプルで、
エアコンを積むと重くなるから。
たった数キロでもマシンが重くなれば、そのぶんラップタイムに確実に悪影響が出ます。F1は「1kgの差で勝敗が変わる」ような世界なので、
- ドライバーを少し涼しくする
- とにかくマシンを軽くして速くする
この2つが天びんにかかったとき、後者が優先されます。
最近は、暑すぎるグランプリだけ冷却ベストが許可されたりしていますが、これも
「快適になる」というより、「地獄がちょっとマシになる」程度
と言われる装備です。
こんなサウナ環境の中で2時間近く走り続ければ、いくらドリンクで水分補給をしていても、「出ていく汗の量」のほうがどうしても勝ちやすい状態になります。
その結果として、レース後に体重計に乗ると、2〜3kg減っていることがあるわけです。
理由③:心拍170&ミス厳禁の2時間
F1ドライバーのレース中の心拍数は、だいたい140〜170bpmのあいだを行き来していると言われています。これは「軽いジョギング」ではなく、ちょっとキツめのランニングをずっと続けているレベルの心拍ゾーンです。
しかもF1の場合は、
- ブレーキポイントを外さないようにコントロールし続ける
- タイヤのグリップや路面の変化を感じ取りながら走る
- 周りのマシンの動きを常に意識する
- 一瞬の判断ミスがそのままクラッシュにつながる
といった状況が、ほぼ2時間途切れず続きます。
つまり、
- 心臓はずっと高回転
- 脳もずっとフル稼働
- プレッシャーもかかりっぱなし
という状態です。
心拍数が高い状態が続けば、そのぶんエネルギー消費は増えますし、緊張やストレスによって発汗量も増えやすくなります。
すでに見てきた、
- とんでもないGで全身がフル稼働
- サウナのようなコックピットの暑さ
に加えて、この「心拍170&ミス厳禁の2時間」が上乗せされることで、レース後には体重計の数字がグッと下がる世界になっている、というわけです。
3kg痩せる中身はほぼ「水」
ここまで読んでくると、気になるのがこれです。
「じゃあ、その2〜3kgって何が減っているの?」
結論から言うと、レース1本で減る2〜3kgの正体は、ほぼ水分だと考えられます。
人間の身体は、おおざっぱに言えば体重の半分以上が水です。体重70kgのドライバーなら、体の中には数十kgぶんの水が含まれています。
レース中は、
- サウナみたいなコックピットの暑さ
- Gと心拍で増えた負荷
- 精神的なプレッシャー
によって、汗や呼気として大量の水分が出ていきます。
一方で、ドリンクで水分補給もしていますが、それでも「出ていく量」の方が上回りやすく、
レース前より体重が2〜3kg軽くなってしまう
という状態になっているわけです。
ここでポイントなのは、
- 脂肪が2〜3kg一気に燃えたわけでも
- 筋肉が2〜3kgその場で落ちたわけでもない
ということです。体重計の数字として減っているのは、ほとんどが“水の出入りの結果”なんですね。
ただし、「水だから大したことない」という話でもありません。
運動生理学の目安では、
- 体重の2%の水分が失われるとパフォーマンス低下がはっきり出て、
- 3〜4%減ると持久力や判断力がガクッと落ちる
と言われています。
体重70kgのドライバーで、レース前より体重が2〜3kg軽くなっているなら、それはちょうどこの3〜4%ゾーンに入ってきます。
つまり、「3kg痩せる」というのは、
F1ドライバーが、ギリギリ踏ん張れる脱水ラインまで攻めた結果
だとイメージしておくと、かなり実態に近いです。
まとめ:化け物なのはマシンだけじゃない

F1ドライバーが、たった1レースで2〜3kgも体重を落としてしまうのは、
- とんでもないG
- サウナみたいなコックピット
- 心拍が上がりっぱなしの2時間
そんな、人間の身体ギリギリの条件が重なっているからでした。
「F1マシンは化け物だ」とよく言われますが、そのマシンをあのペースで最後まで走らせているドライバーのほうも、十分化け物クラスです。
次にレースを見るときは、タイムやオーバーテイクだけじゃなくて、
「この人たち、いま3kg削られながら走ってるんだよな……」
と少し思い出してみると、F1がちょっと違った角度から楽しめるかもしれません。

